同じ残業時間なのに…ストレス反応が高い部署と低い部署

 ストレスチェック制度が義務化されたのは2015年のことです。多くの企業で複数回の実施をしているかと思います。
 
 実際にストレスチェックを受検した企業から聞こえてくるのは、「ストレスチェックをとりあえず実施してみたものの、特に何も変わらなかった」という声です。
 あるいは、実際にストレスチェックを受検した社員から「ストレスチェックを行ったけれど、何も変わらない。何のためのアンケートだったのか。」という不満が聞こえてきます。
 
 従業員満足度調査などを実施した際にも起こるのですが、会社側が何らかのアンケートなどを実施した後、従業員側は何か変わるのかもしれない、変わってほしいと期待が高まります。にもかかわらず何もしないと(あるいは従業員からして何か行われたと感じられない場合)、期待の分、元の状態よりも不満がたまってしまうのです。
 その意味では、第二回のストレスチェック回答率が第一回ストレスチェック時の回答率を下回っているときは注意が必要です。
 従業員が会社の制度に対して失望している可能性があるからです。
 
 多くの企業でストレスチェックを実施し、ストレスの要因として高かったのが、人間関係や仕事の量でした。面白いなと感じたのが、実際の業務量とストレスチェックで回答する仕事の量は必ずしもイコールではないということでした。
 具体的には、残業時間が月平均80時間の部署が複数ある会社でも、すべての部署で仕事の量が多いと答えているわけではないのです。
 
 客観的な指標(残業時間)では仕事量が多いのに、従業員はそれほど負担に感じていない部署とはどのような状況なのでしょう?
 実際にあったケースをご紹介いたします。

 A部署は営業部です。
 そこでは、課長が部下に対して自分で判断できるよう、判断指針のみ明確にし、自分で決定させています。
 そうすることにより、部下は自分の裁量が大きくなり、結果的に残業時間が多くても、主観的には仕事量は多くないと感じ、ストレス反応も少なくなっているということがわかりました。
また、その課長は、自分が会社に残っているときは部下も残っていることがほとんどであることに気づき、意図的に早く帰る日を作りました。
さらに、会社のノー残業デーが形骸化しているため、それとは別に「帰るフラグ」を作り、課員が帰りやすくしました。
 その結果、時間に対する意識改革が課内で起こり、客観的には忙しい部署ですが、体調を崩す課員もいないということでした。
 課長は部下の管理に特に気を使っており、手帳にすべての課員の名前を記載し、毎日10時までに声をかけるようにしているとのことでした。
 またその際の声掛けも「頑張っている」と、ほめるようにしているとのことでした。
 
 同じ会社のB部署も同じく営業部です。
 B部署の課長は、いい言葉で言えば親分肌、少しワンマンな傾向がある部署でした。「会社に忠誠を誓う」が口癖で、部下にも日々そのことを伝えていました。課長が帰る前に帰るなんてありえない、どうせ残業になるからダラダラと仕事をやろうという雰囲気が蔓延していました。
 基本的な決裁権はすべて課長が持っているため、課員の裁量度はないに等しく、いわれるがまま動いているような雰囲気でした。今回のストレスチェックの結果では、最もストレス反応が高く、体調を崩して休職する人も出てきてしまいました。B課長も部下のことは気にはかけており、声掛けもするようにしていました。
その時の声掛けは「頑張ってね」でした。
 
 ストレスチェック実施後、人事部と経営層が話し合い、どうして同じ営業部で同じ残業時間なのにこんなにも結果が違うのかが話し合われました。
そこで人事部がとった施策は、A課長とB課長、そしてほかの部署の課長も集めて、成功事例共有会を実施したのです。
 共有会では、A課長が普段気にかけていることを発表し、共有されました。先に出た、①裁量度②定時間日③毎日の声掛け④声掛けの内容です。この情報は社内で共有され、B課長もやってみることにしました。
 その結果、会社全体で翌年のストレス反応の数値が下がり、業績も向上しました。
 
 このケースで大切なポイントは、集団的分析結果をみて、結果が悪かった人を攻撃しないということです。そのようなことをしても何も問題解決につながりません。
 それどころか、来年以降ストレスチェックを実施するたびに、結果が良くなるよう部下に圧力をかける可能性すら存在します。
 そうなってしまうともう、ストレスチェックをやらない方がましという事態になりかねません。
 

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